世界が認めたパーソナルトレーナー

Personal Trainer Ozeki Toshiaki

ピラティス、食事制限、筋トレ、ヨガ、パーソナルジム、——ダイエットもボディメイクもしているのに、なぜ、身体が変わらないの?痩せても気になる部位だけ落ちないのはなぜ?原因は意志の力でも食事でもありません。指導歴30年・2万人が体感した、根本から身体を変えるパーソナルトレーニング。

30年
パーソナルトレーニング指導歴
2万
指導人数
世界へ
アジア・欧米・ヨーロッパ

なぜ日本で爆買い?「スシジャロ」現象の内外価格差と国内糖尿病患者へのしわ寄せ

本記事は、書籍『マンジャロダイエット』(著者:パーソナルトレーナーおぜきとしあき / 尾関出版)の一部をWeb向けに再構成・編集した公式コラム(第6回)です。
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マンジャロ(チルゼパチド)を巡る熱狂は、いまや個人の体型管理の枠を完全に飛び越え、国境を越えた医薬品の争奪戦と国際的な社会問題へと発展しています。

銀座や新宿、大阪・心斎橋の美容クリニックの待合室に、キャリーケースを引いた外国人観光客が列をなす異様な光景。その背景には、世界でも類を見ない日本の「安すぎる薬価」と、歴史的な円安が生み出した歪んだ経済格差が存在します。行政書士としての法務・制度分析の視点と、現場で身体を見つめ続けてきたパーソナルトレーナーの視点から、この異常事態の全貌を解き明かします。

1. 韓国で月3〜4万円、日本で約1万円|3〜4倍の内外価格差

美容意識が極めて高いお隣の韓国においても、マンジャロに対する需要は爆発的な高まりを見せました。しかし、韓国国内の自由診療市場において、この薬剤を入手するための費用は極めて高額です。

韓国の美容クリニックでマンジャロの初期投与量(2.5mg製剤)を1ヶ月分処方してもらう場合、日本円にして約3万〜4万円前後の費用が発生します。用量をステップアップしていけば、月々の支払いが5万〜6万円を超えることも珍しくありません。

一方、日本国内における事情は大きく異なっています。日本の自由診療市場におけるマンジャロ2.5mg(1ヶ月分)の処方相場は、低価格競争を繰り広げるオンラインクリニックなどでは約6,900円〜12,000円前後にまで下落しました。同一の製薬企業が製造した全く同じ医薬品であるにもかかわらず、日本と韓国の間で約3倍から4倍近い価格差が生じていたのです。

2. 寿司代と航空券代を払ってもお釣りが来る「スシジャロ」現象

この著しい内外価格差に目をつけたのが、海外の個人旅行者やSNS上の美容コミュニティでした。

「ソウルから東京や大阪へ格安航空券で週末旅行に行き、クリニックで数ヶ月分のマンジャロをまとめて処方してもらう。そうすれば、浮いた差額だけで往復の航空券代とホテル代が賄え、本場の美味しい寿司を堪能してもなお手元にお金が残る」

こうした損得勘定が瞬く間にシェアされ、訪日してマンジャロを買い漁る医療ツーリズム、通称「スシジャロ現象」が本格化しました。観光地の自由診療クリニックでは多言語対応の問診票が用意され、事実上のインバウンド向け医療物販としてマンジャロが大量処方されるビジネスモデルが定着してしまったのです。

3. なぜ日本の薬価は世界一安いのか?|公定価格制度の歪み

なぜ日本国内におけるマンジャロは、これほど安く設定されているのでしょうか。その根本原因は、日本が誇る「国民皆保険制度」と「独自の薬価算定ルール」にあります。

アメリカのような自由価格市場では製薬会社が自由に販売価格を決められるため、保険適用外であれば月額1,000ドル(約15万円前後)を超える水準で流通するのが一般的です。これに対し日本は、国(中医協)がすべての医療用医薬品の価格を決定する「公定価格制度」を採用しています。

さらに日本には、新薬が当初の予測を超えて爆発的に売れた場合に薬価を強制的に引き下げる「市場拡大再算定」というルールが存在します。本来この仕組みは、病気で苦しむ日本国民が経済的負担なく高度な医療を受けられるように作られた公的な防壁でした。しかし、自由診療クリニックが「公定薬価をベースにした安い仕入れ値」を利用して外国人観光客や美容目的に横流ししたことで、社会保障制度が想定していなかった深刻な市場の歪みが生まれたのです。

4. 法制度の盲点と形骸化するオンライン診療

日本の法律上、公的な保険診療においては、新薬の漫然とした投与を防ぐために「1回あたり14日分まで」といった処方制限が厳格に義務付けられています。しかし、保険診療の枠外である「自由診療」には、この処方日数制限が法律上適用されません。

医師の裁量権を盾に、初診であっても「3ヶ月分」あるいは「半年分(24本)」といった大量のマンジャロを一度に処方・決済するクリニックが横行しました。

これに拍車をかけたのが、規制緩和された「オンライン診療」の形骸化です。厚生労働省の指針ではリアルタイムのビデオ通話や厳格な本人確認が求められているにもかかわらず、実際にはスマートフォン上でチェックボックスを数箇所タップするだけで、医師との実質的な対話もないまま薬剤が自宅や宿泊先ホテルへ配送されるプラットフォームが乱立しました。

5. 新宿薬局事件|偽造処方箋による海外闇ルートへの組織的転売

この制度の緩みと内外価格差が結びついた結果、単なる個人の美容利用を越えて、組織的な不正密輸事件へと発展しました。

2026年に摘発された「新宿薬局事件」では、調剤薬局の関係者がブローカーと結託し、偽造された処方箋や架空のオンライン診療データを悪用して数百本単位のマンジャロを不正入手していました。入手された薬剤は国内で消費されるためではなく、国際郵便や訪日客のスーツケースを介して、価格が高騰している海外の闇ルートへ組織的に転売されていたのです。

韓国税関におけるチルゼパチド等の不正持ち込み摘発件数は、2024年の年間わずか4件から、2026年には年間5,000件規模へと文字通り千倍以上に跳ね上がりました。病気を治すための医薬品が、国際的な利ざや稼ぎの「投機対象」へと成り下がった瞬間でした。

6. 国内の2型糖尿病患者へのしわ寄せ|薬が届かない医療現場の悲劇

自由診療での大量処方やインバウンドの買い占め、組織的な不正転売が横行した結果、その最も残酷なしわ寄せを被ったのは、日本国内で命を守るために治療を続けている本物の2型糖尿病患者たちでした。

急激な需要過多に対応できなくなった製薬会社は、医療機関や卸業者への「限定出荷(出荷制限)」を長期継続せざるを得なくなりました。その結果、全国の医療現場では以下のような深刻な事態が日常化しました。

  • 血糖コントロールの著しい悪化:マンジャロの在庫が全国で底をついたため、医師はやむを得ず旧世代薬への変更を余儀なくされ、安定していたHbA1cの数値が急上昇してしまう患者が続出しました。
  • 毎日の自己インスリン注射への後退:重症の患者に対しては、毎日の血糖測定とインスリン注射への切り替えが行われました。インスリンは投与量を誤ると命に関わる重篤な低血糖発作を引き起こすリスクがあり、患者の生活の質と精神的負担は跳ね上がりました。

「本来なら健康で糖尿病でもない方々が手軽な痩身のために薬を買い漁る一方で、失明や人工透析の危機に直面している糖尿病患者に必要な薬を渡せない」——現場の専門医からは、あまりにも不条理な医療の崩壊に対して悲痛な叫びが上がっています。

安価に手に入り、誰も傷つけていないように見える個人的な自由診療。しかしその背景には、公的薬価制度の悪用と、命の危機に直面する慢性疾患患者の生存権を脅かす構造的暴力が存在しているという事実を、私たちは直視しなければなりません。

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監修・執筆:パーソナルトレーナーおぜきとしあき

パーソナルトレーニング指導歴30年以上、2万人を超えるボディメイク指導実績。青山学院大学、東京大学で学ぶ。トップファッションモデルやミスワールド日本代表をはじめ、女優、タレント、一般層まで幅広くボディメイク指導を担当。国家資格である行政書士としての知見を併せ持ち、プロフェッショナルのための出版社「尾関出版」代表として執筆活動も行う。著書に『マンジャロダイエット』(尾関出版)ほか多数。

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